動物たちは、感じている痛みや症状を飼い主さんや獣医師に言葉で正確に伝えることはできませんね。いくら注意してみていても、比較的症状が軽かったり病気が初期の場合などは、なかなか気づいてあげられない場合もあります。そのためはっきりとした症状があらわれてから(かなり症状が重くなってから)、動物病院で獣医師の診断を受けることになる可能性も高いといえます。
動物病院では物言わぬ犬や猫たちの状態をさぐり、早い時期で病気を発見するために、定期的に犬や猫たちの健康診断を実施し、血液検査や尿検査、またレントゲン検査などを行なうことが多くなりました。また、手術の前や痲酔の処置の前などでも、これらの検査は広く実施されています。
今回はその中の「血液検査」についてお話ししてみましょう。
血液は血管の中を流れて、私たちや犬や猫たちの体の中をくまなくめぐっています。血液が赤い色をしているのは、赤血球の中に含まれているへモグロビンという物質が赤色をしているためです。 血液中に含まれている主な細胞成分には赤血球、白血球、血小板といわれるものがあります。赤血球は全身に酸素を運ぷ役割があり、白血球は主として色々な病原体から身体を守る働きをしています。また血小板は、ケガをしてしまった時など、その出血を止める働きがあります。
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血液検査を実施するには、まず血液を採取をします。 犬や猫の場合は、四肢や頸部の血管から採血します。 |
これは前肢の静脈から採血をしているところです。採血する際は動物が動いてしまわないようにしっかり保定しておきます。 |
動物病院ではまず犬や猫の全身状態の把握や血液学的疾患の検出のため赤血球系、白血球系、血漿部分の検査が行なわれることが多いと思います。
最近では多くの項目について調べられるようになってきましたが、その中の代表的なものを紹介しましょう。
一定量の血液中に含まれる赤血球の数や形態を調べます。
血液中に含まれる赤血球など血球成分の容積が全体の何%にあたるかを示す値をPCV(ヘマトクリット値)といいます。当然この値が低い場合、血がうすいということで貧血を示します。高い値の場合は血が濃いということで脱水症状や多血症などの可能性が考えられます。
一定量の血液中に含まれる白血球の数や形態を調べます。白血球は体内に入ったとき細菌などを攻撃し戦ってくれる体の防衛隊です。
白血球の数が増えている場合は、体に侵入した病原体に対して白血球が一生懸命戦っている状態で炎症がおきていたりします。また稀に白血球がどんどん作られてしまう白血病の状態の可能性もあります。
血液中の蛋白の量で、増加は脱水や炎症または免疫異常などが考えられます。低下している場合は栄養失調や肝臓・腎臓・消化器系の障害が考えられます。
また、もっと深くどの臓器に異常が起きているのかを調べるために、血清化学検査が行なわれる場合もあります。こちらも多くの検査項目がありますが、代表的なものを次に示します。
血液中の尿素態窒素の量であり、腎臓に障害があると排泄されなくなるため増加します。また、循環障害や高蛋白食などによっても上昇することがあります。反対にBUNは肝臓で作られるため、肝不全の場合には減少することがあります。
筋肉から出てくる窒素化合物であり、BUNと同様に腎臓機能が障害されると増加します。しかしBUNと違って腎臓以外の要因で上昇することはありません。
また、肝臓で作られるわけではありませんので、肝不全で減少することもありません。
肝細胞の細胞質内に存在する酵素で、肝細胞が障害されると漏出するため上昇します。
肝細胞の細胞質内の主にミトコンドリアに含まれている酵素であり、ALTと同様に肝細胞が障害されると上昇しますが、ALTが比較的軽い障害でも上昇するのに比べASTは重度の障害時に上昇します。
糖尿病のときに上昇しますが、食後は正常な動物でも上昇します。また、ストレスによっても上昇することが多いため、動物病院に来て興奮している状態で採血した場合も高くなることがあります。
これらの他に、フィラリアか寄生しているかどうかを調べるための検査や電解質の検査、各種ホルモンの検査など血液で色々なことを調べることができます。これらを実施して動物病院では、自分では何も言うことのできない犬や猫からのSOS信号をキャッチしようとしているのです。 左の表のように犬や猫の1年は、2歳を過ぎれば人間の4年から5年にも相当しますので、1年に1回の健康診断も、犬や猫にとっては実質は4年間で1回、ということになります。 少しでも病気の早期発見・早期治療を行なえるように、血液検査を含め定期的に健康診断を受けられることをおすすめします。 なお、それぞれの検査項目での正常値に関しては各施設、各検資機種や犬・猫の年齢などによっても違いがありますので、ここではあえて示していません。それぞれ、かかりつけの動物病院で説明を受けてください。 |
犬・猫と人間との年齢換算表
*犬種・猫種、体の大きさなどにより、若干の違いがあります。 |