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耳のフシギ

 右に左に、閉じたり立ったりと、犬や猫の耳はよく動くと思いませんか? 耳は音波刺激(音)を感じ取る大切な感覚器。そのほかにも、体のバランスを保つ平衡感覚にも一役かっています。大切な役割をはたしているだけに、耳の構造はとても複雑なもの。今回はちょっと難しいかもしれませんが、耳の構造と役割にせまってみます。少し知っているだけで、もしかすると動物病院にかかったときに役に立つかもしれませんよ。では、耳のフシギにいざ突入!

知ってなるほどワンニャフル 耳の形イロイロ・・・犬も猫も基本は直立型

犬の場合基本の形は直立型、その他に垂れ型、半直立型の3種に分けることができます。これに、耳介の付け根の位置や、形、大きさ、厚さ、位置、断耳の有無などによるバリエーションが加えられて、様々な耳の形がつくられています。
猫の場合基本の形は直立型ですが、その他にスコティッシュ・フォールドの内側に折れた耳、アメリカンカールの外側にカールした耳があります。これらの耳の形はその特性を維持するため、選択的に支配を重ねた結果です。愛らしいものですが、それにともなう病気にも注意して品種を増やしていって欲しいものですね。

耳の構造と役割

耳は外耳と中耳、内耳に分けられます。
それぞれが大切な役割をもっていて。構造も違っています。
では、耳の中をちょっとのぞいて、それぞれのフシギを解明していきましょう。

外耳 集音器官→→→音を集める役割・その構造は?

 外耳とはその名の通り、目で確認できる「耳介」と「外耳道」から構成されています。耳介は音を集めるための器官(集音器官)です。野生で生きぬいていく必要のあった犬や猫は、人間と比べて効率良く音を集められるように、耳介を自由に動かすことができます。しかも、片耳だけを、また、両耳を別々の方向ヘ動かすこともできます。それだけ、音を集めることが生きていくうえで大切なことだったのでしょうね。

  耳介で集められた音波は外耳道を通って鼓膜に伝えられます。この外耳道は音波を効率よく伝えるため、軟骨に囲まれた洞穴のようになっています。また、外耳道は垂直耳道と水平耳道に分けられます。この耳道が折れ曲がった構造は、外耳道の奥にある鼓膜を守るためのものなのでしょう。

中耳 変換器官→音を振動に変える役目・その仕組みは?

 中耳は「鼓膜」、「鼓室」そして「耳管」から構成され、その役割は外耳から伝わってくる音波を適当な強さに変換し、内耳ヘ伝えることです。

 鼓膜は太鼓の膜のような役目をしますが、太鼓ほどにはぴんと張っていません。大きな音の衝撃に耐えられるよう、少し窪んだ形をしています。鼓膜の外耳道側は皮膚と同じ構造を、鼓膜の内側は粘膜で覆われた構造をしています。ここで外界と体の中をしっかり分けています。鼓室は小さな部屋のようになっている部分で、この部屋の中には小さな3つの骨とその骨を組み合わせている関節があります。これらは大きな音による強い振動を鼓膜と同じように、弱める役目も持っています。

 また、よく電車や車に乗っていて、耳がつーんとする現象がありますよね。中耳は、鼓室内と外界の気圧差が生じたときに、気圧差の調節を行う役割ももっており、あのイヤな耳がつーんとする現象を防ぐように一役かっているのです。

内耳 音を脳へ伝えるしくみ→ちょっと複雑、だって平衡感覚も司っているもの!

 内耳は「前庭」・「蝸牛」・「骨半規管」で構成されています。

 聴覚に関わってくるのは内耳の蝸牛という器官です。ここで初めて脳で「音が聞こえた」として認識され、それが何の音なのかを判断しています。

平衡感覚が鋭いのは犬・猫どっち?!

 内耳は平衡感覚(バランス感覚)を保つ役割ももっており、その役割をになう構造の一部に骨半規官があります。その骨半規官の内部に「三半規管」と呼ぱれる構造があるのですが、この「三半規管」という言葉、どこかで聞ぃたことはありませんか? これはとても大ざっぱに言うと、"車に酔いやすいか、酔いにくいか"につながる器官になります。例えば、車に揺られている場合、体は今どういう状況になっているのか?という信号が神経に伝わり、それに対応して脳は体のバランスを保とうするのです。

 猫では他の哺乳類に比較し、この三半規管から前庭が発達してぃます。そのため、抜群のバランス感覚を誇っています。そういえば、犬は車に酔いやすいというのはよく聞きますが、猫が酔ったと言う話はあまり聞かないと思いませんか?

知ってなるほどワンニャフル 猫の聴覚・犬の聴覚

犬・猫・人 どこまで聞こえる?

音は空気中を縦波として伝わってくる音波を耳がとらえたものです。音波は「周波数が高い・低い」と表現し、この周波数はHz(ヘルツ)という単位で表されます。すなわち、高音は周波数が高く、低音は周波数が低くなります。人の聴覚は最小20Hz~最大20000Hzまでとらえることが出来ると言われています。人の声の周波数は200~3500Hzくらいで、ソプラノは高い周波数を、バスは低い周波数を持っていることになります。

犬の聴覚は最小20Hz~最大40000Hz

猫の聴覚は犬よりも広く、最小30Hz~60000Hz、最大100000Hzとも言われています。

これを見ると、猫は人・犬・猫の中で、もっとも聴覚が発達し、高い周波数を良く開き取ることが出来るということになります。猫が男性よりも女性になつくことが多いのは、女性の声が男性より高音なことが多いためかもしれませんね。

ちなみに、猫のゴ口ゴロという声の周波数は25~50Hzの範囲で、なんとか人間にも聞くことができます。

先生教えて! Q&Aコーナー

犬の耳、猫の耳ともに毛が生えている品種、生えていない品種があります。長毛種の場合は犬猫にかかわらず、毛が生えている子が多いですね。これは、もともとは寒さや雪、砂漠の砂が耳に入るのを防ぐためであったと考えられます。現在の環境では耳の毛はほとんど必要ないと思われ、湿気の多い日本では、かえって耳の毛が外耳炎の原因の一つにもなることがあります。外耳炎になりやすい子はこまめに毛を抜いてあげるか、カットしてあげるといいですね。

犬の耳も猫の耳も人間に比ベてよく動きます。これは、耳を構成している筋肉が発達しているためです。特に猫では、左右の耳介が別個に180度以上も動かすことができ、どこから音がしているのか、音源を探ることが得意です。犬は聴覚より嗅覚の方が優れているぶん、猫よりも音源を探るのは少し苦手なようですが、それでも人間よりはるかに優れています。

耳のお手入れワンポイントアドバイス

耳をお掃除するときには、綿棒をあまり奥まで入れないようにしましょう。奥に無理やり入れようとすると水平耳道の部分をこすって傷つけてしまう場合があります。綿棒では、そっと見える範囲の耳垢を取り除くだけにします。耳の奥の洗浄は耳専用の洗浄液(お手入れ用品)を使用し、液を外耳に入れた後、外耳道に沿って耳を優しくマッサージしましょう。これだけで、耳の汚れが浮き上かってくるので、後は自由に頭を振らせてあげると、耳の奥にある耳垢は外に飛んでいってくれます。大きな耳垢の場合は綿棒でそっと拭き取ってあげるとよいです。いずれにせよ、耳のお手入れをするときは、一度動物病院で具体的なお手入れの仕方を教えてもらいましょう。また、お手入れの途中でやり方が難しいと感じたときなども、動物病院にご相談くださいね。

さて、耳のフシギにどこまでせまれたでしょうか。耳のちょっとした動きにも、何かな?と興味をもつことによって、今以上に愛犬・愛猫ヘの愛情が深まるかもしれませんね?!