健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

症状から見つける犬の病気 「下痢をする」

『症状から見つける犬の病気 「下痢をする」』
愛犬の体調不良でよく見られるのが「下痢」。
単なる食べ過ぎから、命に関わる危険な病気まで、下痢症状を示す病気は多種多様です。
危険なサインを見過ごしてしまわないよう、どんな病気の可能性があるのか知っておきましょう。

自らの消化酵素で自分を消化してしまう病気
慢性膵炎(すいえん)

膵炎は、本来腸管内に分泌されて働くはずの膵液が、何らかの原因で膵臓内で活性化し、膵臓自体が消化されて炎症を起こす病気です。
 膵炎には急性と慢性があり、急性膵炎では、発熱や激しい腹痛、下痢や嘔吐などが見られ、重症化すると呼吸困難やショック症状を起こし、膵臓が壊死して死に至ることもあります。慢性膵炎は急性ほど激しくはありませんが、下痢や嘔吐、食欲不振など急性膵炎と似たような症状が続き、次第にやせてきます。長期化すると膵臓が徐々に破壊され、インシュリンが分泌できなくなって、糖尿病を発症することもあります。
 膵炎の治療は、症状に応じて輸液療法とともに、制吐剤や鎮痛剤、抗生剤などの投与を行います。また短期間の絶食後に、経腸チューブで栄養補給を行うこともあります。慢性の場合は、低脂肪食の食事療法で症状をコントロールしていきます。

自分の腸を攻撃する原因不明の自己免疫疾患
IBD(炎症性腸疾患)

原因不明の慢性的な下痢や嘔吐のなかで、最も多いといわれるのがIBD(炎症性腸疾患)です。これは、自分の免疫で自分の腸を攻撃してしまう病気で、腸粘膜が炎症を起こして栄養分を十分に吸収できなくなります。進行すると、腸粘膜からタンパク質がどんどん漏れ出し、腹水がたまったり低タンパク血症を起こすこともあります。
 原因は明らかではありませんが、遺伝性、食物アレルギー、細菌感染など複合的な関与が疑われています。IBDは消化器型リンパ腫との鑑別が難しく、確定診断のためには病理検査が必要です。
 症状が軽ければ、低アレルゲン食による食事療法だけで改善することもありますが、症状が治まらない場合は食事療法と並行して、ステロイド剤、抗炎症剤、抗生物質などを投与して炎症を抑えます。完治は難しく、食事療法と服薬で様子を見ながら症状をコントロールしていくことになります。

下痢以外に、食欲不振や体重減少に注意して
消化器の腫瘍・消化器型リンパ腫など

胃、腸、肝臓などの消化器系の悪性腫瘍(がん)、消化器型リンパ腫などでも、慢性的な嘔吐、下痢、血便などの症状が見られます。また、悪性腫瘍には共通して、食欲不振、体重減少、元気消失などがサインとして現れるので、愛犬がシニア期になれば、下痢だけに注目せず、全身の様子にもよく注意してください。
 消化器系の悪性腫瘍はレントゲン検査や血液検査では診断が難しく、超音波検査(エコー)や内視鏡を用いての生検(バイオプシー)が必要になることもあります。治療は、腫瘍の部位や進行度合いなどによって、外科手術、抗がん剤の投与、放射線治療などが選択されます。

下痢・軟便のときは、便をラップに包んで病院へ持参しましょう。

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