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犬のからだセミナー 舌編 犬の「舌」は人とどう違うの?

犬のからだセミナー 舌編 犬の「舌」は人とどう違うの?

犬の舌の「役割」とは?

犬の舌は、どんな役割を担っているのでしょうか?もちろん人の舌と同様の働きもしますが、なかには人にない機能もあります。

  • 食事や飲水時にスプーン代わりに使う
    (食物を舐め取ったり、舌で水をすくったりする)
  • 味を感じる
    (ただし味覚は人より鈍感)
  • 体温を調節する
    (舌を使ったパンティング<あえぎ呼吸>で体温調節)
  • 感情を表す
    (「舐める」行為からさまざまな気持ちが読み取れる)
犬は舌の裏側を使って水を飲む

 舌は表面を粘膜で覆われていますが、内部は筋肉でできているので、かなり自在に動かせます。犬は、食べ物を舐め取ったりするときは舌の表側を使いますが、水をたくさん飲むときは、舌の裏側に丸めて水をすくって飲むのが特徴。猫の場合は、水を飲むときも舌の表側を使います。

味蕾(みらい)の数は人の1/5で、味音痴

 舌の表面には、舌乳頭と呼ばれるザラザラした突起があり、味を感じる味蕾(味細胞の集まり)は、ここに集中しています。犬の味蕾の数は約2000個で、1万個ある人に比べて、味音痴といえそうです。
 味の基本感覚は、「甘い」「酸っぱい」「塩辛い」「苦い」から構成されますが、犬の場合、最も多いのは「甘味」を感じる味蕾で、大の甘い物好き(猫は、近年の研究から、遺伝子的に甘味を感じる受容体がないことが判明)。2番目が「酸味」で、「塩辛味」にはかなり鈍感なようです。「苦味」については、毒物の見極めに必要で、犬は苦味を嫌って吐き出すという説と、吐き出すのは、苦味を感知する受容体がないためという説があり、明らかではありません。
 いずれにしても、犬は食べ物のおいしさを味より臭いで判断しており、これは猫も同じです。

舌を使ったあえぎ呼吸で、体温を下げる

 人は、汗を分泌するエクリン腺が全身に分布していますが、犬には肉球にしかなく、汗をかくことができません。そこで、暑いときは、舌を出してハァハァとパンティング(あえぎ呼吸)をし、舌と咽喉頭から唾液を蒸発させ、その気化熱で体温を下げています。これは、人の舌にない役割です。

犬の舌にまつわる雑学Q&A 犬が傷口を舐めるのはなぜ?

唾液の中には、微量ですが、殺菌・抗菌作用をもつ物質(リゾチーム、ラクトフェリン、ヒスタチンなど)が含まれています。犬だけでなく、動物が傷口を舐めるのは、ケガを治そうとする自然な行為ともいえます。もっとも、口腔内には雑菌も多いので、かえって悪化の原因にも。あまり舐めるようなら、早めに動物病院へ。

「舐める」しぐさで、気持ちがわかる

不安や緊張を和らげるカーミングシグナル

 犬が飼い主さんに怒られたり、散歩中に他の犬に出くわしたりしたとき、「自分の口のまわりや鼻先を舐める」姿を見たことはありませんか?これは犬が不安や恐怖を感じたときに、自分を落ち着かせるためや、相手の威嚇を和らげるために行うしぐさで、「カーミングシグナル」と呼ばれています。カーミングシグナルには様々な種類があり、犬が緊張したときに「あくびをする」のも、その一つ。

常同障害の可能性も

 犬が意味もなく足先をしつこく舐めるときは、「常同障害」の可能性があります。常同障害とは、体の一部を舐め続けたり、しっぽをグルグル追うなど、極端な繰り返し行動をとるもので、引き起こす原因は様々ですが、ストレスもその一つ。飼い主さんがかまってくれなかったり、新入りペットが増えたりなど、思い当たる環境変化はありませんか。犬のストレスサインかもしれませんよ。

おねだりや親愛の情の表現

 犬が飼い主さんの口元をペロペロと舐めるのも、よくある行動です。これは子犬が母犬に餌をねだるときのしぐさから来ているという説や、オオカミが群れの上位者に対する挨拶行動の名残という説も。どちらにしても、飼い主さんへの甘えや親愛の表現といえるでしょう。

舌の病気と健康管理

舌の色にも注意して

 通常、健康な犬の舌はピンク色ですが、赤く腫れていれば口内炎や口内潰瘍の可能性も。また、舌下部に「がま腫」と呼ばれる袋状の病変ができることもあり、これは唾液が排出障害でたまったもので、比較的簡単が外科処置で治ります。
 舌が白っぽくなっていれば、貧血や栄養不良かもしれません。
 舌に黒い斑点が見られることもあります。もともも舌斑と呼ばれる黒い斑点をもつ犬もいますし、皮膚と同様、舌にもシミやホクロが急激に大きくなったり、硬く隆起してきたりすると、メラノーマ(悪性黒色腫)の疑いも。まれな病気ですが、非常に悪性度が高いので、注意してください。