健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

街全体で取り組む「飼い主のいない猫」との共生-東京都千代田区の事例紹介-

考えたい、人と動物が幸せに暮らすということ。

「飼い主のいない猫」は街全体の問題。

東京都千代田区では、平成12年より「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」が始まりました。これは行政、獣医師、そして街の皆さんが協力し、「飼い主のいない猫」に去勢・不妊手術を行って数が増えないようにしながら、猫たちの命をみんなで見守ろうという「地域猫活動」です。この事業を始めるにあたり、千代田区で暮らす方と働く方からボランティアを募集し、「ちよだニャンとなる会」を発足しました。

会では捕獲器の使い方、去勢・不妊手術、譲渡先探しのアドバイスやサポート、地域とのコミュニケーションをとるための会報誌やチラシ等の作成・配布などを、千代田区、保健所、獣医師、ボランティアなどたくさんの方々と協力して行っています。

猫の問題に取り組むことが、私たちの街を変えていきました。

「飼い主のいない猫」の問題には難しい面もあります。たとえば、「猫が可哀そう」「放っておいたら飢え死にしてしまう」と食べ物を与える方がいるかと思えば、鳴き声がうるさい、排泄物をまき散らす、ゴミを荒らす、といった迷惑行為だけを見る方も。考え方の違いから対立し、事件にまで発展するケースもあります。

 

そんなことにならないように、私たちはどちらの立場の方にも配慮し、理解していただけるように働きかけています。

この事業では平成21年度までの10年間で1632頭の猫の不妊手術に協力し、猫に関する区民からの苦情も激減しました。(平成21年度・年間12件)。千代田区内から東京都動物愛護相談センターに引取・収容される猫は、平成13年度に72頭だったのが平成20年度には11頭(うち2頭は譲渡)に減り、平成22年度はついにゼロになりました。清掃事務所が扱った路上死体数(年間)も平成12年度に318体だったのが平成21年度には138体と半分以下になり、飼い主のいない猫の数がかなり減っていることがわかります。

また、猫の問題に街ぐるみで取り組むことで、地域のコミュニケーションが活発になり、高齢者の孤立を防ぐという思わぬ成果もありました。また、子供たちに命の大切さを教えることにもつながりました。

猫の好き・嫌いを超え、皆さんとともに問題解決に取り組んだことで、街全体がいい方向へ変わることができたのだと思っています。

人にも動物にもやさしい街へ。高齢者のケアにも取り組んでいます。

飼い主のいない猫の保護活動

「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」は、行政とボランティアが協力して動物との共生に取り組み、大きな成果を上げています。これは、地域の問題を解決するひとつのお手本にもなっていると思います。

昨年からは動物との共生支援ネットワーク事業として、飼い主のいない猫への取り組みを安定して継続するだけでなく、新しい活動も始めました。

ひとつは、公益社団法人日本動物病院福祉協会のご協力をいただき、ボランティアが犬・猫を連れて区内の特別養護老人ホームを訪問する活動です。動物とのふれあいが健康、福祉、教育にさまざまな効用をもたらすことは専門家によって証明されていますが、特に高齢者のQOL(クオリティオブライフ・生活の質)を向上させる効果が高いといわれています。実際に、老人ホームの皆さんが満面の笑顔を見せてくれたという声も聞いています。

もうひとつは「ペットのためのセイフティネット」。たとえば、高齢でペットの世話が困難になったとき、入院やホーム入所などで飼い続けることができなくなったときなど、ボランティアが訪問して協力したり、ネットワークを通じて新たな飼い主探しをサポートしたり、といったことです。まだまだ課題も多いですが、推進会議を設置し、これまで以上に区民やボランティアの皆さんと連携して、実現を目指していきたいと考えています。

保護した猫は去勢・不妊手術を済ませて、元の場所へ解放します。

今回は、動物愛護社会化推進協会(HAPP)が取組む、「人と動物・自然との調和のとれた社会づくり」の活動を通じて出会った地域の活動を紹介させていただきました。

ペピイは、人と家庭動物がより幸せに暮らす社会を作る活動を支援しています。

ちよだニャンとなる会会報誌
■取材協力 ちよだニャンとなる会

http://www.chiyoda-nyan.org/

年1回会報誌を発行しています。

「飼い主のいない猫」から「家庭の猫」となった猫たちの近況報告、会の活動報告、千代田区長や警察署長からのメッセージなど、盛り沢山の内容です。