健康・しつけ・くらし記事 獣医師さんのアドバイス

犬の「歯」って、人とどう違うの?

犬の「歯」って、人とどう違うの?

犬の歯の基礎知識

図1
犬の歯も生え変わります

子犬の口の中をじっくりのぞいたことがありますか?犬にも、人と同様、乳歯と永久歯があります。乳歯は、生後3週間前後から生え始め、約2ヵ月で生え揃います。永久歯は生後4ヶ月過ぎから生え始め、通常、6~7ヵ月頃には生え変わりが完了します。抜けた乳歯のほとんどは飲み込まれてしまうため、飼い主さんは気づかないこともあるかもしれません。

ちなみに犬は、乳歯28本、永久歯42本。人は乳歯20本、永久歯28本(親知らずを含めて32本)ですから、人より多いですね。

肉を切り裂きやすい、尖った歯

犬の歯は、ほとんどが肉を切り裂きやすい先の尖った形をしています。具体的にそれぞれの歯を見ていくと・・・

切歯

一番正面に上下各6本ある前歯。獲物を捕らえたり、物をかじったり、体がかゆいときに毛づくろいをするのも、この歯です。

犬歯

切歯の両側に上下各2本ある、大きく尖った歯。獲物に噛みついたり、肉を引きちぎったりします。犬にとっての大きな武器で、戦うときは、犬歯をむき出して相手を威嚇します。

臼歯

犬歯の後ろに続く歯で、前臼歯が上下各8本、後臼歯が上に4本、下に6本あります。人の臼歯は、文字通り臼状で、食べ物をすりつぶす役割をしますが、犬には食べ物を咀嚼する習慣がないため、臼歯も小さく先が尖っており、食べ物を飲み込めるサイズに噛み切る役割をします。

犬に虫歯が少なく、歯周病が多い理由

犬と人では、口内環境にいくつかの違いがあります。

まず1つめは、今も述べた通り、歯の形状が違います。人の歯の多くが臼の形をしているのに対し、犬の歯の多くは薄く尖っています。
  2つめは、人の唾液にはデンプンを糖に分解する酵素・アミラーゼが含まれていますが、犬の唾液にはほとんど含まれていません。
  3つめは、人の口内は弱酸性ですが、犬はアルカリ性です。

こうした違いが、実は虫歯や歯周病の発生率に影響しています。犬の場合、口内がアルカリ性で虫歯菌が繁殖しにくいこと。唾液にアミラーゼを含まず、虫歯菌の餌となる糖が口内に溜まりにくいこと。歯が尖っていて、人の臼歯のようにくぼみに虫歯菌がたまりにくいことなどから、人と比べて虫歯になりにくいのです。逆に口内がアルカリ性のため、歯垢が石灰化して歯石になりやすく、人より歯周病になりやすいといえます。

図2

犬に多い歯のトラブルとは?

成犬の多くが抱える「歯周病」

歯周病は、歯垢や歯石が原因で歯の周辺組織に起こる炎症で、口臭、歯肉の腫れや出血などの症状が見られます。成犬の8割がかかっているともいわれるほど、犬に多い病気です。

前臼歯の根に炎症を起こすと、目の下に膿がたまって腫れてきたり、犬歯の根が炎症を起こした結果、周囲の骨が溶けて、口と鼻がつながってしまい、鼻水や鼻血など、歯のトラブルとは思えない症状出てくることも。また歯周病菌が血流で運ばれ、心臓や肝臓、腎臓などの内蔵の病気を引き起こす可能性もあります。

治療は、動物病院での歯石除去(スケーリング)が基本ですが、全身麻酔が必要なため、高齢になるとリスクを伴います。

何より日頃からのデンタルケアが大切。犬の場合、歯垢は3~5日で歯石化するといわれ、できれば毎日、少なくとも2日に1度の歯みがきが望まれます。

硬い骨やおもちゃに注意!「破折・咬耗」

図3

歯が折れたり欠けたりした状態を破折、歯がすり減った状態を咬耗といいます。けんかや事故、硬い骨やひづめなどを噛んで歯が折れたり、ボールやフリスビー遊びを長時間続けていると、歯がすり減るケースもあります。

損傷によって歯髄が露出すると、痛みを感じたり、細菌感染を起こしたりするので、早急な治療が必要です。損傷が軽ければ、歯の欠損部分を樹脂で充填するなどの修復ができますが、損傷がひどければ抜歯が必要になることもあります。

犬の歯は、私たちが思うほど強くはありません。歯の健康のためだからと、あまり硬いものを噛ませすぎないようにしましょう。

「乳歯遺残」は不正咬合や歯周病の原因に

子犬の飼い主さんに注意してもらいたいのが、乳歯遺残です。乳歯から永久歯へ生え変わり時期を過ぎても、乳歯が抜けずに残っている状態を乳歯遺残といいます。

乳歯が残ったままだと、永久歯が正常な位置に生えず、不正咬合を引き起こしたり、歯と歯が密着しているため歯垢や歯石がつきやすく、歯周病にもなりやすくなります。

永久歯が生え揃う時期(生後6~7ヶ月)になれば、動物病院で歯並びに異常がないか、一度チェックしてもらうといいでしょう。