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かゆがる

病気クローズアップ 犬 かゆがる

春から夏は、犬の皮膚病が増える季節です。
今回は、「かゆみ」を引き起こす代表的な皮膚病を取り上げました。
なかにはノミや疥癬など、人にもうつり、被害を及ぼすものも。素人判断は禁物! 
必ず動物病院で診察を受け、適切な治療を受けましょう。

人にも被害

かゆみを引き起こす最もポピュラーな寄生虫 「ノミ刺傷・ノミアレルギー性皮膚炎」

 犬が体をかく原因として、最も一般的なものがノミです。ノミの成虫が見つからなくても、被毛の付け根に黒い細かい粒(ノミ糞)が見つかれば、原因はノミと考えられます。
 ノミによる被害は、まず、多数のノミに寄生され激しいかゆみを生じる「ノミ刺傷」。もう1つが、ノミ刺傷を繰り返したせいで、ノミの唾液に激しいアレルギー症状を起こすようになった「ノミアレルギー性皮膚炎」です。こちらは、わずか1匹のノミに吸血されただけで発症することも。犬の背中から腰、尾の付け根にかけて脱毛や赤い発疹(ブツブツ)がみられます。
 治療は、動物病院で処方される効果の高いノミ駆除用スポット剤(滴下剤)の定期的な使用とともに、生活環境を清潔に保つこと。また、ノミアレルギー性皮膚炎は非常に強いかゆみを伴うため、ステロイド剤の使用や、成虫だけでなく幼虫・卵の除去も含めたノミコントロールが必要となります。

※犬のノミは人も吸血して、かゆみなどの被害を及ぼしますが、人には寄生しません。

人にも被害

ダニの寄生による激烈なかゆみが特徴 疥癬 かいせん

 「疥癬」は、イヌセンコウヒゼンダニの寄生による皮膚病。メスダニが産卵のために皮膚にトンネルを掘ったり、ダニの唾液などの刺激によって炎症と激しいかゆみを生じます。最初は顔や耳のふち、四肢などにかゆみを伴う赤い発疹ができ、次第に全身へ広がります。患部をかくことで、フケやかさぶた、脱毛を生じ、さらに引っかき傷から細菌感染し、化膿することも。
 治療は、殺ダニ剤を使用し、併せてかゆみを抑える薬や抗生物質を使用することも。接触によって簡単にうつるため、多頭飼育の場合は、感染犬との接触、寝床やブラシなどの共用は避けてください。

※犬の疥癬は人にもうつり、かゆみや皮膚炎などの被害を及ぼしますが、人には寄生しません。

ベタつきや大量のフケ、マラセチアに感染するとさらに悪化 脂漏 しろう 症・脂漏性皮膚炎 」

 「脂漏症」は、犬に多い皮脂異常による皮膚病です。表皮の代謝サイクル(皮膚のターンオーバー)が異常に短くなり、角質化した細胞が未成熟なままはがれ落ちて大量のフケが出たり、皮膚の表面がベタついて強いにおいを発したり、かゆみを生じたりします。症状には、皮膚がベタつく油性脂漏症と、皮膚がカサカサになる乾性脂漏症とがあります。
 治療には、過剰な皮脂を取り除く効果のあるもの、角質層の形成を促し保湿作用のあるものなど、症状に合った薬用シャンプーで頻繁なケアを行います。
 脂漏症を放置していると、真菌(カビ)の一種であるマラセチアに感染して「脂漏性皮膚炎」を発症、さらに症状を悪化させます。マラセチアは皮膚の常在菌ですが、脂質と湿度を好み、脂漏症体質の犬は、マラセチアの増殖を引き起こしやすいのです。
 脂漏症になりやすい犬種として、もともと皮脂の分泌が過剰なことが多いシー・ズーやコッカー・スパニエルなど。

皮膚に常在するブドウ球菌に感染して発症 膿皮 のうひ 症 」

 皮膚の表面には、ブドウ球菌やマラセチアなどが常在しています。通常は皮脂や細胞性免疫などの表皮バリアで守られ、皮膚そのものへの侵入は防がれていますが、皮膚が不潔だったり、他の皮膚炎にかかっていたり、免疫力が低下したりしていると、ブドウ球菌に感染し、「膿皮症」を発症します。主に顔や指の間、わき、内股などに赤みやかゆみがみられ、強いかゆみから、かんだり引っかいたりして脱毛を招くことも。
 治療は、抗菌剤を含むシャンプーによるスキンケアが中心。皮膚感染が慢性化している場合には、抗生剤による治療が必要です。
 膿皮症になりやすい犬種として、品種的に表皮バリアに問題があることが多いゴールデン・レトリーバーやビーグルなど。

大半がハウスダストマイトに対するアレルギー 「アトピー性皮膚炎」

 「アトピー性皮膚炎」の多くは室内のハウスダストマイト(コナヒョウダニやヤケヒョウダニ)に対するアレルギーです。この抗体を持つ犬が室内を歩いたり、においをかいだりするときに皮膚にハウスダストマイトが付着し、アレルギー反応が起こるのです。主な症状は、目や口の周り、足先などの赤みとかゆみ。普通のアレルギーが4歳以降に多いのに対し、アトピー性皮膚炎は大半が1歳半以内に発症します。生まれつきの体質で、生涯にわたるケアが必要です。
 対策としては、低刺激性の保湿力にすぐれたシャンプーで頻繁に体を洗い、ハウスダストマイトを洗い流すこと。また空気清浄機やハウスダスト除去スプレーなどで室内を清潔に保ち、寝床をダニの繁殖を抑えるような素材に変えることも有効です。悪化したケースでは、二次感染を抑える抗生剤や、ステロイド剤の使用を考慮しなければいけないこともあります。

注意!

皮膚炎ではなく、命にかかわる腫瘍の場合も 「肥満細胞腫」

 かゆいからといって、必ずしも皮膚炎とは限りません。「肥満細胞腫」のように、放置すると命にかかわる病気の場合もあります。肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍のなかでも最も多い病気です。
 初期は、ほんの小さなしこりであったり、虫刺され跡のような赤い腫れであったりするため、つい見逃されがちです。かゆみを軽視せず、気になる症状があれば、すぐに動物病院へ。