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犬のからだセミナー 被毛編 意外と知られていない?「抜け毛」の仕組み

犬のからだセミナー 被毛編 意外と知られていない?「抜け毛」の仕組み

愛犬の抜け毛は、飼い主さんの大きなお困り事の1つ。
換毛期ともなれば、その量は半端ではありません。
では、犬の毛は人とはどう違うのか、どんな仕組みで毛が抜けるのか?
犬の被毛の特徴と抜け毛の仕組みを知っておきましょう。

犬には2種類の毛が生えています

 体全体を覆う犬の毛、人の毛とは生え方も違うのでしょうか?一部の犬種を除いて、犬の毛には「一次毛」と呼ばれる長くて太い毛と、「二次毛」と呼ばれる短くて柔らかい毛があります。人の場合、通常、1つの毛穴からは一本の毛しか生えていませんが、犬では一次毛と二次毛が同じ毛穴から生え、1つの毛穴から平均7~15本もの毛が生えているのです。

 一次毛は「上毛」(オーバーコート)と呼ばれ、主に皮膚を保護する役割を担い、二次毛は「下毛」(アンダーコート)と呼ばれ、保湿の役割を担っています。

毛周期の違いによって、抜け毛の量の差が

犬の被毛の生え方

 どんな犬の毛も、一定のサイクルで発育と脱毛を繰り返しています。このサイクルを「毛周期」といい、【成長期】→【退行期】→【休止期】の3期からなります。休止期が続くと、やがて古い毛の奥に新しい毛が生え始め、古い毛を押し出して脱毛が起こります。この仕組みは人と同じですね。

 毛周期には犬種差や個体差があり、それによって抜け毛が多かったり少なかったりします。そこで、質問です。マルチーズやヨークシャー・テリアなどの長毛種と、ビーグルやラブラドール・レトリーバーなどの短毛種では、どちらが抜け毛が多いでしょうか?
 正解は「短毛種」。長毛種は毛周期が長く、毛が伸びる成長期が長く続くため、抜け毛は比較的少なめ。対して短毛種は毛周期が短く、短期間で毛が抜け変わるため、抜け毛が多くなるのです。

 もっとも長毛種は、そのぶん被毛が汚れたりもつれたりしやすいため、抜け毛が少ないからといって、お手入れがラクなわけではありません。

犬種によっては、換毛期がないことも

 犬の毛は、こうした日々の抜け変わり以外に、春と秋の年2回、大量に抜け変わります。これが「換毛期」です。換毛期には日照時間と気温、とくに日照時間が大きく関係しています。

 春になり、日が長く暖かくなってくると、密生していた冬毛がどんどん抜けて、粗めの夏毛が生えてきます。そして秋になり、日が短く気温が下がってくると、今度は夏毛が抜けて、その下からふわふわの冬毛がびっしりと生えてきます。この冬毛が、冬の間、犬の体を寒さから守ってくれるわけです。

 しかし、なかには換毛期のない犬もいます。犬の毛には、ダブルコートとシングルコートの2タイプがあります。ダブルコートとは上毛と下毛の両方をもつもの、シングルコートとは上毛しかもたないものです。実は、換毛期に抜けるのは下毛で、上毛しかないシングルコートの犬には換毛期がありません。

 シングルコートは、比較的温暖な地域で改良された犬種に多くみられます。

主なダブルコートの犬種

主なシングルコートの犬種

異常な脱毛を見逃さないで!

毛周期による日々の抜け毛、季節の変わり目の換毛などは、健康な犬に起こる自然な現象ですが、なかには病気によって毛が抜けることもあります。こうした病的な脱毛には、大きく2つの原因が考えられます。

毛周期の異常

 1つは毛周期の異常で、本来の毛周期と異なるサイクルで一度に多くの毛が抜け、脱毛に左右対称などの規則性がある場合。5~6歳以上で比較的よくみられるのは、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、甲状腺機能低下症などの内分泌(ホルモン)疾患によるものです。その他、手術や体調不良による身体的ストレスや、生活環境の変化による精神的ストレスなども、毛周期に変調を来す原因になります。

毛包の異常

 もう1つは、毛包と呼ばれる毛の根元の異常で、皮膚や毛に受けたダメージから、部分的または規則性のない脱毛が起こる場合。原因の多くは細菌やカビ、ダニなどによる感染症です。それ以外では、自己免疫疾患、腫瘍、外傷などが考えられます。

 その脱毛が、病気かそうでないかを判断するのは難しいものです。気になる脱毛があれば、動物病院で相談しましょう。どんなふうに脱毛しているかをチェックしておけば、受診の際に手がかりとなります。