極楽いぬ生活

すてきなおばさん

クーはわが家のワン唯一のオトコのコであるせいか、結構縄張り意識が強く、また、彼の決めたマイ縄張りは、かなり範囲が広いので困る。
 彼によると、わが家の面する道路から200m先の公園、さらにその200m先の橋までは縄張り内であるらしく、その中にいるときは他のイヌや見慣れぬ人に対するチェックがえっらい厳しい。散歩中もチェックを欠かさないので、こちらはイヌ以上の機敏さで周りをチェックしながら歩かなければならない。3歳になって間もないエアデールテリア以上の鋭さで周囲の様子を察知しながら歩くのは、もうとうに運動能力のピークを過ぎて下り坂にさしかかったニンゲンには結構大変なことだ。
 そしてつい先日、朝のお散歩をしていたときに、道路の向かい側を怪しいおばさんが歩いてきた。年の頃は50〜60代くらいの小柄な女性で、両手に大きなレジ袋の荷物をぶらさげ、前傾姿勢で前も見ず、頭からこちらに突っ込んでくるような感じだ。
 私の目から見ても、かなり怪しい。これはクーが吠えてしまうかもしれない。いや、むしろ吠える方が自然だろう。だって、怪しすぎるもん。
しかしまぁ、道路の向こう側を歩いているんだし、大丈夫かなと思った矢先、そのおばさんは何を思ったか道路をななめに横切り、こちらに突進してきた。頭から。
 私がヤバいと思い、クーが少し身体をこわばらせたその瞬間、おばさんはふっと顔を上げ、「かわいいね〜。」と言った。極上の微笑みをたたえて。途端にクーの緊張は解け、頭とお尻を丸めてしっぽをぶんぶん振り出した。おばさんもうれしそうにさらに近寄ってきてくれるが、何ぶん荷物で両手がふさがっているため、クーの歓迎に応えることができない。「かわいいね〜。喜んでくれるの?いいこやね〜。」と言いながら次の瞬間「ふん。」と頭を差し出した。
もともと小柄な方なので、前傾姿勢で頭を少し突き出すと、クーの顔の位置とほとんど変わらなくなる。 クーは遠慮なく目の前に差し出されたおばさんの顔と言わず頭と言わず舐めまくり、おばさんはその度にお礼を言う。「ありがとう。こんなおばちゃんでも舐めてくれるんやね〜。いいこやね〜。かわいいね〜。ふん。」って。
ひとしきりクーに顔と頭をくしゃくしゃにされた後、おばさんは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら去って行った。前傾姿勢で。
なんてすてきで勇気のある無謀なおばさんだろう。見知らぬ大きな犬にいきなり頭を差し出すなんて、私にはできない。しかし、あの警戒心のかけらもない完全に脱力した状態が、ワンコも脱力させるんだなぁ。もうムツゴロウさんの域だ。
 そのおばさんに出会ったおかげで、その日クーは誰に対してもいっさい警戒しなかった。縄張りの中であれ外であれ、出会ったイヌも人もみんなお友達なのだと思っている風だった。すばらしいおばさんだ。叱るより、ご褒美より、ずっと効き目のあるおばさんの笑顔。嗚呼、今までの私の躾って、何だったんだろ?
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このコどんなコ?

プロフィール

マルヤマ ユーコ
イラストレーター
うらんとココアとクリオの姉(自称)
クリオ(愛称クー)
エアデール・テリア
オス♂ 4歳
愛されるために生まれてきた、わが家の末っ子長男。3歳をすぎても相変わらずのお日さま犬ぶり。性格のよさはピカイチ。
ココア
スタンダード・シュナウザー
メス♀ 6歳
何事につけても白黒はっきり、0か100かの極道の妻、いや、犬。3年半を過ぎて、ようやく少し落ち着きを見せはじめた。ただし、家の中限定。実はものすごい頭がいい。でも、使い方を間違うの〜。
うらん
ゴールデンレトリバー
メス♀
2006年1月、お星様になる。やさしくて大らかでちょっとシャイだけど、かなり強気なわが家の長女

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